《ホンダF1田辺TDインタビュー1》いよいよ日本GP鈴鹿。メルセデスとフェラーリとの差とPU開発体制の現在地

 いよいよ今週末に開催されるF1第17戦日本GP鈴鹿。2015年にホンダがF1に復帰して5回目となる今年は、これまでの4年とは期待の高さが大きく異なる。トロロッソに加えてレッドブルへもパワーユニット(PU)を供給したホンダF1は、第9戦オーストリアGPで復帰後初優勝を果たし、第11戦ドイツGPで2勝目を挙げ、勝利の可能性をもって今年の鈴鹿を迎えることになる。ホンダF1の現場を率いる田辺豊治テクニカルディレクター(TD)に、就任2年目の今季について鈴鹿直前のロシアGPで話を聞いた。

──今年はこれまで2勝を挙げることができました。まずは田辺TD就任2年目、2019年シーズンのこれまでの成績をどのように感じていますか。

「そうですね、去年のトロロッソ加えて今年はレッドブルとホンダが組むことになり、みなさま、いろいろと期待して頂いたと思いますけど、今年は車体のエアロダイナミクス(空力)のレギュレーションが大きく変わっていて、そのあたりで車体がどうなるかなというのがひとつ不安要素としてありました。単純に去年までの勢力図が継続されれば、レッドブルもかなりいいポジションにいるはずだと思っていたんですけど(昨年4勝)、今年、蓋を開けるとやはり、そうそう簡単じゃないなと」

「開幕前のオフシーズンテストではメルセデスがかなりパフォーマンスを伸ばしてきている、フェラーリも速い、そしてレッドブルは去年までのそのトップ2に対するギャップよりも、大きなキャップを持ったかたちで今年、スタートすることになったと思っています」

「そういう意味で我々開発陣としてはレッドブルと組むことになったからと言って楽観視していたわけではないので、ある意味、悪い予想が当たってしまったというかたちになりましたけど、当然、我々もPUの開発プラン、スケジュールに従ってパフォーマンスアップ、信頼性アップに努めるなか、レッドブルも必死にトップ2とのギャップを縮めるような車体開発を進めてきて、そしてシーズン中盤、とくにオーストリアから全体のパフォーマンスが上がったなかで夏休み前までに優勝できましたが、トップ2とのギャップは縮まってきたものの、まだまだギャップはあると思っています」

──ギャップのあるなかで、メルセデス、フェラーリに勝つことができた。

「オーストリアでは外気温の影響(ヨーロッパの初夏の異常気温でライバルが冷却に苦しんだ)、そしてチーム、ドライバーのタイヤマネジメントで勝利を手にできた。ドイツでも雨のレースのなかでチームのストラテジーとドライバーの雨のなかでの安定した走りで勝つことができた。トップとの差がまだあるなかで、レッドブルとホンダがきちんと性能を発揮する、車体とPUのパフォーマンス、タイヤのパフォーマンス、そしてチーム戦略とドライバーの力が最大限発揮されて、すべてがうまく回ったなかでふたつ獲れたかなと思っています」

「今年の初めのときから考えると、夏までに2勝できたというのは、逆に言えば予想していなかったところではあります。開幕の時点ではトップ2とのギャップは大きい、それをいかに回復していくかというなかで、ギャップを詰めていくなかで勝利を得られたというのは、パフォーマンスがトントンになってきて勝ったねというのとは違うと思っています」

「去年、レッドブルは4勝していますが、去年のその位置関係が今年の始まりのときにはズレていて、そこからリカバリーしていったというのは我々にとって非常に大きな励みになりますし、チームにとっても新しくホンダと組んでどうなるのかと当然、思っていたはずですが、組んで良かったという形になっていると思います」

──それでも今年前半で2勝できた。我々メディア、そしてファンとしては次の後半戦は2勝、または3勝と期待してしまいますが、直近の第15戦シンガポールGP、第16戦ロシアGPを見ても、ライバルもまたアップデートを加えて速くなった。なかなか甘くはないなという印象を受けます。

「そうですね。夏までに詰めてきたギャップからフェラーリの位置づけがかなり変わって、ここ3戦、頭ひとつ抜け出たなと思っています。高速サーキットのスパ(第13戦ベルギーGP)とモンツァ(第14戦イタリアGP)に関しては前半戦の状況からも、フェラーリのストレートの速さとサーキット特性とのマッチングで強いだろうなと予想していましたが、実際にはやっぱり強かった。そして(シャルル)ルクレールが安定して結果を残すようにもなってきました」

「その後、低速コースのシンガポールで戦ってダウンフォースの状況を見て、高速2戦と低速1戦の3戦で現在の状況がわかるかなと思っていましたけど、そこでもやはりフェラーリが速かった。彼らも前半戦で明らかになった弱点をつぶし込んで後半戦に持ってきた。そこでそれまで詰めたギャップがまたひとつ、逃げられたかたちになっていると思います」

「ですので当然、レッドブルも我々も止まっているわけにはいかないので、彼らは車体の開発、我々はPUの開発、そして使い方を含めて戦闘力を上げていきますけど、おっしゃるように、早々簡単に追いつくとは、まったく簡単とはいえない状況ですね」

写真で振り返る『ホンダ優勝歴史的一日プレイバック 』
マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)、ホンダF1田辺豊治テクニカルディレクター

ホンダF1の現在の開発体制、現場と日本側のパワーユニット開発の進め方

──その開発状況についてですが、改めて現在のホンダF1の開発体制を教えて下さい。

「浅木(泰昭)がPU全体の開発責任者で、日本のHRD Sakura研究所で開発を指揮しています。私は現場で2チーム4台のPUの使い方、アロケーション(基数の割り当て)含めてのマネジメントを受けもって現場、サーキット側からPUを使った状況だったり、性能を上げるための要望だったり、使い勝手の向上の要望であったり、問題点などを研究所に伝えます。それを受け取る責任者として浅木がいる。私が現場の責任者、浅木が開発側、日本での責任者になります。現場でもそうですけど、Sakuraの研究所でもエンジニア同士が細かいところでコミュニケーションを取っていまして、最終的な決定には浅木がイエス、私がイエスというかたちでお互いの合意を取って前に進んでいるというかたちです」

──意見が割れて、現場と日本側、それぞれ主張が異なるときなどはどのように方向性は決まるのですか?

「今の開発体制のなかでは、現場の意見をきちんと伝え、現場の意見をきちんと聞いてもらっています。当然、研究開発上の状況は現場の我々も理解した上で、一部妥協するときもありますけど、現場と開発、片方の意見だけで進むようなことはなく『どうするのがベストか』というかたちで話し合って進めています」

「その中で意見が分かれたときは、改めて『何が最適なのか?』とお互い話し合って決めます。実際にはそんなに意見が食い違うということはありませんね。優先順位を入れ替えたりするレベルでの話し合いで、現場の意見を尊重してもらっています。『現場がそうでも研究所の今の開発状況がこうだからこっちを優先する』という場合もありますが、PUの開発に関しては最終的には浅木が判断して決まります」

──ホンダF1の開発拠点は栃木のHRD Sakuraだけでなく、イギリスのミルトンキーンズにもファクトリーがあり、年間21戦+テストの現場、そして栃木、イギリスと大きく3箇所を田辺TDはどのような割合のスケジュールで動いているのでしょう。

「私は基本的にSakuraに戻るのは、レースとレースの合間が2週間あった場合、3~4日程度、Sakuraに出社できるかなというタイミングになりまして、毎戦毎戦、レースのあとに帰るというスケジューリングはしていません。イギリスの方でもやらなければいけないことがありますし。連戦のロシアGP前、シンガポールGPの後には日本に帰国しましたが、その前は8月後半、夏休みのタイミングですね」

──HRD Sakuraに行くときはやはり打ち合わせが中心でしょうか?

「そうですね、打ち合わせが中心になります。当然、メールや電話でメンバー全員含めてコミュニケーションは取りますけど、やはりSakuraに行って1日研究所にいると、ものすごい膨大な量の情報を得られますし、極端に言えば歩いているだけでも情報が得られます。開発設計の部署に行って話をして進捗を聞いたり、ダイナモテストの部署に行けば、その時の状況が把握できますし、こちらの現場やイギリスにいるときに受ける、まとまった状況での報告や連絡の、その周辺情報がかなり入ってきます」

──イギリスのファクトリーでもベンチテストを行いことができる。バッテリーの開発はイギリスで行っていると聞きましたが、イギリスのファクトリーの責任者は田辺TDになるのですか?

「はい。イギリスのファクトリー全体の責任者は私になっていますけど、イギリスの開発部門の責任者はまた別のスタッフが担当していてます。そこの全体の責任者と現場のオペレーションの責任を私が受けもっています。さらに、私は今年はジュネーブにも行くことが多くて、2021年からのF1の新レギュレーションに関してFIAと最後の詰めの段階の協議にも参加しています」

──ちょっと想像ができない忙しさです(苦笑)。そのスケジューリングに加え、当然、レッドブル、そしてイタリアのトロロッソのファクトリーに行くこともあるわけですよね?

「こちらから行くことは今はあまりないですね。1年間のなかで何度かフェイス・トゥ・フェイスのミーティングがありますけど、今はチームのファクトリーではなく、ミルトンキーンズの我々のオフィスに来てもらってミーティングしています。レッドブルはファクトリーが近いので、ちょっと話に行くというのはありますけど、定期的なコミュニケーションに関しては我々のオフィスに来て頂いています」

(第2回:『第二期との違い、現在の信頼性向上の背景』につづく)

2018年型ホンダ F1パワーユニットRA618H
2019年のホンダF1のパワーユニットは未公開だが、写真の昨年のRA618Hからターボチャージャーユニット(TCU)は大幅に改良。TCUはIHIとホンダが共同開発。

浅木 泰昭(ホンダF1 HRD Sakura センター長)
浅木 泰昭(ホンダF1 HRD Sakura センター長)
2019年F1第15戦シンガポールGP マックス・フェルスタッペン(レッドブルRB15・ホンダ)
2019年F1第15戦シンガポールGP マックス・フェルスタッペン(レッドブルRB15・ホンダ)