現代にコーチビルディングを蘇らせた、3台のブガッティ製ハイパースポーツ

現代にコーチビルディングを蘇らせた、3台のブガッティ製ハイパースポーツ

Bugatti La Voiture Noire

ブガッティ ラ ヴォワチュール ノワール

それぞれが独立したマスターピースたる存在に

夜を表す漆黒の闇、そしてロングホイールベース。この3月、ブガッティが発表した究極のグランツーリスモ「ラ ヴォワチュール ノワール」は、自動車業界に非常に大きなインパクトを与えることになった。

そして、アルザスを拠点とするハイパースポーツメーカーは、続いて「チェントディエチ」を発表。伝統的なコーチビルディングの手法を用いることで、1990年代の「EB110」へのオマージュを完成させた。チェントディエチは、今後数ヵ月をかけて限定10台がモルスハイムのファクトリーで製造される。

コーチビルディングの手法により、ブガッティはユニークなデザインやテクノロジーをもった車種を展開しており、それぞれが“マスターピース”と言われる存在になっている。ブガッティのスペシャルプロジェクトの責任者を務めるピエール・ロンメルファンガーは、これらのモデルについて以下のように説明した。

「少量生産シリーズとワンオフモデルの開発は、ブガッティのような“特別”な自動車メーカーにとっても課題になっていると言えるでしょう。それでも私たちは、お客様に特別な個性をもったハイパースポーツを提供したいと考えているので、この課題に喜んで取り組んでいるのです」

42歳のロンメルファンガーは、ブガッティが手がけてきた少量生産シリーズとワンオフモデルの開発責任者として働いてきた。彼はアイディアの段階から発表までプロジェクトのすべてを指揮している。

異なるプロセスを経て開発された3台のスペシャルモデル

これまでに発表された3つの少量生産シリーズ「ディーヴォ」「ラ ヴォワチュール ノワール」「チェントディエチ」は、それぞれが異なるプロセスを経て開発された。

「基本的に特別なモデルの開発の際には、まずアイディア書のようなものを作成します。その後に最初のデザインコンセプトを作り、それを一部のカスタマーに提示して反応を見るのです」とロンメルファンガー。

例えば、ディーヴォのようにコーナリング性能の向上という明確なコンセプトがある場合、そこからデザイン、性能、品質などが導き出される。一方、ラ ヴォワチュール ノワールやチェントディエチは、ブガッティの伝統や歴史からインスピレーションを得たモデルだ。

Bugatti Centodieci

ブガッティ チェントディエチ

ベースモデルとなった「シロン」と明確に差別化

コーチビルディングモデルのベースモデルとなっているのは「シロン」。このハイパースポーツも500台限定生産モデルであり、量産車とは言い難い存在だ。ロンメルファンガーが率いるチームは、シロンをベースにしながらもエクステリアやテクノロジーの面で明確に差別化を図った。

ステファン・ヴィンケルマン社長の直属のコーチビルディング開発部門には、現在20名の従業員が在籍。彼らは様々なパートナー企業と協力しながらプロジェクトを進めている。

例えば、ディーヴォはブガッティのモータースポーツの伝統を蘇らせたモデルだ。シャシーやボディの最適化により、抜群のコーナーリング性能を誇るスーパースポーツが完成した。「ディーヴォは横方向の安定性、加速性能、コーナリングレスポンスの点でベースとなったシロンを超え、はるかに優れた性能を発揮します」と語るのは、ヴィンケルマン社長。

カスタマーからのリアクションは素晴らしく、500万ユーロという価格にも関わらず限定40台が公式発表前にソールドアウトしてしまった。

実績のあるシロンのコンポーネントを活用

ボディ剛性や衝突安全に関してはあえてリスクを取らず、すでに実証されたシロンのテクノロジーが利用されている。また、パワーユニットはどのコーチビルディングモデルも最高出力1103kW(1500hp)を発揮する8.0リッターW型16気筒クワッドターボエンジンをベースに開発。チェントディエチでは1176kW(1600hp)までチューンアップされている。

そして、ボディシェル、エアロダイナミクス、シャシー、各種装備、シートなどの変更により、多種多様なコーチビルディングモデルが誕生する。「ニューモデルとして発表する以上、独立したモデルとして自立し、カスタマーからもそう認識されることが重要です」とロンメルファンガーは指摘した。

Bugatti Divo

ブガッティ ディーヴォ

コーチビルディングとは自動車におけるオートクチュール

ブガッティは110年前に設立されて以来、伝統的にカスタマーの要望に応えたカスタマイズを行ってきた。創業者のエットーレ・ブガッティは言っている。「何かと比べられてしまったら、もうそれはブガッティではない」と。ブガッティは、その黎明期から高級車に特別なエクステリアを与えるコーチビルディングを展開してきたのである。

コーチビルディングのコーチ(Coach)という言葉は、馬車またはクルマを指している。「コーチビルディングは、ファッション業界のオートクチュールに相当します。つまり、個々のカスタマーの好みに合わせて、オーダーメイドのクルマを製作するということです」とヴィンケルマン社長。

1920年代初頭まで、ブガッティはシャシー開発に特化した企業だった。ボディワーク部門は1923年にモルスハイムに設立。エットーレ・ガッティは、完璧なクルマとは美的に申し分のない存在だと考えていた。息子のジャン・ブガッティも自動車会社にとってボディデザインが非常に重要になると確信しており、その分野に注力することになった。

ボディ変更だけに留まらないブガッティのコーチビルディング

かつてコーチビルディングとは、ボディメーカーが異なるタイプのボディを同じシャシーに架装することだった。細かい調整こそあったものの、技術的な変更はほとんど行われていなかった。しかし現在、ブガッティは前述のようにシロンのシャシーをベースにしながらも、まったく異なる乗り味を提供している。

「特に高級車のカスタマーは、見た目が異なるだけでなく、まったく別物のドライブフィールを求めます。それこそシロンとチェントディエチは、完全に別個のモデルと言えるでしょう。そして1台1台がカスタマーの希望にそって、独自のカラーリングが与えられるのです」とロンメルファンガーは説明する。

「現在、我々は110年前にエットーレ・ブガッティが作り出した存在を再現しようとしています。ラ ヴォワチュール ノワールやチェントディエチのように歴史を念頭に置きつつ、ディーヴォのようにまったく新しいアイディアを追求しているのです」

最後にロンメルファンガーは、彼のお気に入りの1台としてディーヴォを挙げた。

「ディーヴォは、我々が手がけた最初のコーチビルディングです。カスタマーからの反応も素晴らしく、その熱は驚くほど拡散していきました」