中野信治インタビュー:後進の視察中に起きた大クラッシュ「避けようもなく、不幸な要因とタイミングが重なった事故でした」

 鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長を務めるなど、現役引退後も後進ドライバーたちの育成、指導に熱心に当たる中野信治氏が、スパ・フランコルシャンを訪れた。FIA-F2、FIA-F3を戦う松下信治選手や角田裕毅選手らの視察が主な目的だったが、そこでF2ドライバー、アントワーヌ・ユベール選手の死亡事故に遭遇。今の思いを語ってもらった。

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──モータースポーツに事故は付きものとはいえ、今回の死亡事故は非常に衝撃的でした。

中野信治(以下、中野):すごくショックだったし、映像を見た時も正直、目を覆いたくなりましたね。悲惨すぎる事故でした。

──スパ・フランコルシャンという伝統的なグランプリサーキットの、最も有名なコーナーといっていいオー・ルージュの先で起きた事故でした。オー・ルージュならではの事故といってしまえば、それまでです。しかしそれでも、避けられなかったのかという思いが消えないのですが。

中野:自分自身が走っていたわけではないので、実際の状況とか、細かい現場の様子とかはわかりません。ただこのサーキットは僕も何度も何度も走っているので、その自分の経験から言うと、あのコーナーは先がとにかく見えないんですね。たとえ目の前で事故が起きてたとしても、直前までわからない。それが今回の場合はさらに、瞬間的に立て続けに事故が起きて、おそらく旗を出す余裕もなかったと思います。

 レーシングスピードでオー・ルージュを駆け上がったら、そこに止まってるマシンがいた。避けようがないですよね。本当に不幸な要因、不幸なタイミングが重なった事故だったんでしょう。大きな事故というのは、今回に限らずそういうものですけど。

──家族がレースに帯同していて、その目の前で起きた事故でもありました。

中野:それも本当に、痛ましいとしか言いようがありません。でも一方で、亡くなってからまだ24時間も経っていないのに遺族の方が気丈に公の場に姿を見せて、アントワーヌくんの仲間だったドライバーたちに囲まれて、グリッド上で黙とうを捧げた。レースが自分の息子を殺したと、たとえ憎んだとしても仕方がない状況だと思うんですが、お母さんはそうしなかった。モータースポーツという文化がヨーロッパにしっかり根付いていることを、改めて感じましたね。