鈴鹿10時間:年に一度のレースで見えた海外勢と日本勢とのわずかな経験値の差

 8月25日、鈴鹿サーキットで行われた2019第48回サマーエンデュランス『BHオークション SMBC 鈴鹿10時間耐久レース』。インターコンチネンタルGTチャレンジ(IGTC)の一戦として行われ、IGTCポイントをかけた海外チームと、スーパーGTやピレリスーパー耐久シリーズの参戦チームがしのぎを削る戦いとなったが、レースの“戦い方”をめぐって興味深いポイントがいくつか見られたのでご紹介しよう。

■ピレリタイヤをいかに使いこなすか

 この鈴鹿10時間は、GT3カーの“世界一決定戦”と称して行われたレースだが、このスタイルになって2年目の今年もさまざまなチーム、ドライバーからレース後、重要なポイントとして挙げられたのが「ピレリタイヤの使い方」だ。

 海外チームは、IGTCにシリーズで参戦しているチームが多いほか、ほとんどのチームやドライバーはブランパンGTワールドチャレンジ・ヨーロッパに参戦しており、そのシリーズで使用されるピレリをいわば“履きこなして”いる。

 一方で、特にピレリに苦戦しがちなのはスーパーGT GT300チームだ。ご存知のとおりGT300用タイヤは世界的に見ても特殊で、時季の違いこそあれ、鈴鹿の予選タイムを見ても車両は同じにも関わらず3秒ほどGT300の方が速い。

 ただ逆に、年に一度履くピレリはGT300用タイヤとは構造も異なり、タイヤに対して攻撃性が高い鈴鹿では“落ち”も早い。基本的に鈴鹿10時間では65分で1スティントだが、この1スティントの間でいかに早いラップを重ね続けるかが勝敗のカギになる。この点でアドバンテージをもっていた海外チームが多かった。

 このピレリの使い方も含め、7月のスパ24時間にも参戦していたメルセデスAMG・チーム・グッドスマイル、日本チームではないが、ニッサンGT-RニスモGT3を使い、日本人ドライバーを起用しIGTCにシリーズ参戦するKCMGは、やはり強みを発揮していた。また、同じピレリを使うブランパンGTワールドチャレンジ・アジアのチームも、タイヤに悩んでいるような声はあまり聞こえなかった。

 当然ながら、タイヤを使いこなすためにはレースを戦うか、テストをこなす必要がある。ただ鈴鹿10時間の合同テストは5月で、レースウイークに比べてもかなり気温・路面温度が低い。GT300チームは、同じ車体でブランパンGTアジアに参加することもできず、基本的にこの合同テストを使うしかない。GT300チームにとっての難しさのひとつと言えるだろう。

2019年の鈴鹿10時間、予選日に向かう各マシン
2019年の鈴鹿10時間、予選日に向かう各マシン
Modulo Drago CORSEの034号車NSX GT3はタイヤにも苦しみ18位でフィニッシュした。
Modulo Drago CORSEの034号車NSX GT3はタイヤにも苦しみ18位でフィニッシュした。

■海外勢の走り方はまるで『ニュー鈴鹿サーキット』!?

 GT300チームにとって難しい点はまだある。今季、金曜プラクティスが雨になったが、特にナイトプラクティスでは「見えない!」という声が多く聞かれた。夜の雨は公道でも見づらくなるが、慣れ親しんだ鈴鹿でも「水たまりの量や雨量が分かりづらい」と、やはり夜のウエット走行はかなり難しかったよう。ちなみに夜間は欧米人の方が良く見えるという説もあるが……。

 GT3車両に設定される追加ライトを使用することで、これを防ぐ一助とできるが、24時間レースがあるスーパー耐久チームは追加ライトを持っていても、基本的に夜間走行がほとんどないスーパーGTでは、この追加ライトは必要ない。ライトユニット付きのバンパーは、メーカーによっては100万円以上の出費になる。多くのチームが装着していたものの、チームによっては「1レースのためだけに出せない」という声もあった。

 そして、今季レースの際に大きく目立ったのは、海外勢の縁石やコース“外”の使い方だ。今さら説明するまでもないとは思うが、レーシングコースには左右に白線が引いてあり、この外側を走行することは本来、走路外走行=トラックリミット違反となる。

 2018年の初開催時は、予選で“コース外も有効に活かすのは当たり前”だった海外勢によるトラックリミット違反が多発し、3人のドライバーのタイム合算に多くの時間を要することになったが、今季はかなり“ユルめ”に裁定された。スパ24時間でも「縁石まではコース」という考え方がドライバーに説明され、縁石に一輪がわずかにでも乗っていればセーフという基準があった。

 このトラックリミット違反については、決勝レースでは当然さらに裁定が“ユルく”なるが、特に日没を迎えはじめてからの海外勢の走り方が、多くの日本人ドライバーにとっては衝撃だったようだ。

 2コーナーや逆バンク手前でも、コーナー外側やイン側をカットしたりという走り方が見られたが、かなりの回数で映像にも映し出されたのが、スプーンの縁石外側のランオフエリアを使う走り方だ。スプーンは複合コーナーで、通常はひとつめのコーナリングの後にアウト側の縁石を踏み、その後ふたつめのエイペックスに沿いながら出口も縁石をかすめバックストレートに向かうのが一般的だ。

 ただ鈴鹿10時間では、アウト側の縁石が始まる手前からランオフエリアに出て、大回りしてふたたび縁石が終わったところでコースに戻るラインをとる海外ドライバーが多くいた。日本人ドライバーたちの間からは「あれでコンマ2秒は変わる」「あれではまるで『ニュー鈴鹿サーキット』のようなもの」「プライドとしてあんな走り方はできない」という声も聞かれた一方で、「海外ドライバーの走り方を見て、自分も試してみた」というドライバーも。ちなみにあのラインは、「意図して外に出なければとれない」ものだという。

ホンダ・チーム・モチュールの30号車に装着されたNSX GT3 Evoの追加ライト
ホンダ・チーム・モチュールの30号車に装着されたNSX GT3 Evoの追加ライト
KCMGのニッサンGT-RニスモGT3。左右に追加ライトが装着されるほか、バンパー部にも。
KCMGのニッサンGT-RニスモGT3。左右に耐久用追加ライトが装着される。
鈴鹿サーキットのスプーン。赤が通常の走行ライン、黄色が鈴鹿10時間で海外勢がトライしたラインのイメージ。
鈴鹿サーキットのスプーン。赤が通常の走行ライン、黄色が鈴鹿10時間で海外勢がトライしたラインのイメージ。

■SRO規定、海外のレースの戦い方にいかに慣れるか

 日本国内のレースではすぐにトラックリミット違反を取られるラインではあるが、近年F1開催サーキットを中心にランオフエリアが舗装化されたことで、ああいったラインを取りコンマ1秒を稼ぎ出す海外ドライバーは多い。「ポールリカールでのブランパンGTなんて、もっとひどいですよ」というGT3関係者の声も。たしかにIGTCでは、前戦のスパ24時間でも夜間にオー・ルージュのエイペックスふたつめを大胆にショートカットし、まるで直線のように走るドライバーが数多く見られた。

 IGTCにシリーズで参戦し、ブランパンGTチャンピオンの経験をもつ千代勝正は、スパの際に「夜のトラックリミットは寝ているんです(笑)」と教えてくれた。これはチームメイトの松田次生が、ライバルの走りを参考に夜間トラックリミットをかなり外して走っていたが、朝になったらペナルティを取られたことについて、ドライバーたちの間で語られている“比喩”として教えてくれたものだ。ただ当然、千代のように場数をこなさなければ、こういった知識や経験に触れる機会もない。

 GT3カーを使うSRO規定のレースでは、イコールコンディションを保とうとうまくレギュレーションが定められているが、そのなかでライバルを出し抜くための、いい意味での“ズルさ”やテクニックが、こういったトラックリミットひとつとっても現れているように思える。どの線引きでペナルティになるか、ならないかを見極める必要があるが、これも経験しなければ分からないだろう。

 もちろんそういった走り方に慣れてしまうと、日本に来てスーパーGTに参戦したときにはすぐにペナルティを取られてしまう。きちんとコースのトラックリミットを把握した走り方もできなければいけない。そしてどちらが正解かと言えば、どちらも正解のはずだ。戦うフィールドに合わせた柔軟な姿勢、そしてその時々における引き出しをいかに増やしていくのかが、こういったレースの場合重要ではないだろうか。

 同じGT3を使うレースだが、SRO規定のレースとGT300ではやはり規定や、それに対する道具ひとつとっても細かく違う。どちらにも良さや見どころがあるし、もし仮に海外ワークスがGT300に参戦しても、勝つまでにはかなりの時間を要するだろう。2年目の鈴鹿10時間というレースだけで見るならば、やはり日本勢と、SRO規定を常々戦う海外勢との差が、ほんのわずかにあることを実感した。逆に言えば、物量やコストのかけ方の違いはあるが、埋められない差でもないはずだ。

2019年の鈴鹿10時間を制したアウディスポーツ・チームWRTの25号車アウディR8 LMS GT3
2019年の鈴鹿10時間を制したアウディスポーツ・チームWRTの25号車アウディR8 LMS GT3
3位に入ったアブソリュート・レーシングの912号車ポルシェ
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BMWチーム・シュニッツァーの42号車とバトルするKCMGの35号車ニッサンGT-RニスモGT3
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