池沢早人師に訊くスーパーカーブームの裏側「第12回 特別対談3:“潮来のオックス”と新旧ランボルギーニを語る」

池沢早人師に訊くスーパーカーブームの裏側「第12回 特別対談3:“潮来のオックス”と新旧ランボルギーニを語る」

池沢早人師 × 関根英輔

アウディの血がランボルギーニを変えた

1975年から週刊少年ジャンプで連載が始まった『サーキットの狼』は、子供から大人までを巻き込んだ“スーパーカーブーム”を巻き起こし、社会現象として歴史にその名を残した。ここでは特別対談の最終回として、同作品の作者である池沢早人師先生と作中にも登場した“潮来のオックス”こと関根英輔さんをお訪ねし、ブームの主役であったランボルギーニについてお話をお訊きしてみたい。

カウンタックと共に猛牛の名前を広めたミウラ

自動車漫画のルーツといわれる『サーキットの狼』。その作中には世界中のスーパーカーが登場し、子供だけでなく大人たちをも熱狂させた。ロータス・ヨーロッパを駆る主人公の風吹裕矢だけでなく、数々のキャラクターを支えた名車たちは今もなお鮮明な記憶として焼きついている。

その中でも強烈な存在感を発揮していたのがカウンタックとミウラであり、ランボルギーニという名前はスーパーカー世代にとって特別な存在になっていることは間違いない。ここではご両名にランボルギーニについて語っていただこう。

池沢早人師(以下、池沢):1975年から連載を開始した『サーキットの狼』だけど、連載を始める前の構想段階ではスーパーカーの知識が少なくて、色々なクルマを見ることから始まった。でも憧れていた「ランボルギーニ・ミウラ」だけは当時から知っていて、ストーリーの中で活躍させたいと考えていた。前にも話したと思うんだけど、当時の自動車雑誌で特集されていたミウラの姿に感動してしまい、自分が乗っていたフェアレディZ(30Z)のリヤウインドウにもミウラと同じようなルーバーを付けて喜んでいたくらいだからね(笑)。

関根英輔(以下、関根):当時はフェラーリとランボルギーニが双璧のライバルとして取り上げられていた。そのライバル関係は昭和、平成、そして令和へと時代が変わっても受け継がれているのは面白いよね。跳ね馬 vs 猛牛の図式は永遠のライバル。

池沢:フェラーリを買いに行ったフェルッチオ・ランボルギーニが「耕運機メーカーの田舎者には売らないよ」と言われ、それなら俺がフェラーリを超えるクルマを作ってやるよと反骨精神を燃やして誕生したのがランボルギーニ・・・みたいな都市伝説もライバル関係を盛り上げるスパイスになっている。でも、本当はフェルッチオ・ランボルギーニがフェラーリを購入して、フェラーリのパーツに自分のトラクターと同じ部品が使われているのを知って、スーパーカーはビジネスになるとフェルッチオが思ったのがランボルギーニの原点なんだけどね(笑)。

関根:伝説を作るには、色々な噂や都市伝説は必要だよね。今でいう炎上商法じゃないけど、噂が盛り上がれば注目度も上がるしメディアも取り上げてくれる。

池沢:『サーキットの狼』の連載を始めた頃、関根さんがミウラに乗っていたのを鮮明に覚えている。あのクルマは本当にカッコ良かった。

関根:池沢君と出逢った翌年だったから1976年の話だね。シーサイドモーターで輸入したミウラのSV。SVが最後の年になったモデルだから今でも覚えているよ。当時の価格で1300〜1400万円くらいだったかなぁ?

池沢:でも関根さんが凄いのは、そのクルマを今でも持っていることだよね。43年間もベストコンディションで維持していることは驚きでしょう?

関根:でも、ミウラを持っていたからこそ池沢君と仲良くなれたんだよね(笑)。

池沢:当時は『サーキットの狼』にキャラクターとして登場させて欲しいと言ってくる人が多かったけど、実は自分からキャラクターにしたいと思ったのは関根さんだけ。関根さんは登場させてくれとは一度も言わなかったけど、出逢った瞬間「素晴らしいキャラクターを発見!」って思ったからね(笑)。

関根:そんなにカッコ良かった?

池沢:確かにカッコ良かったけど、バリバリの茨城弁を理解するのに時間が掛かった(笑)。でも、既にストーリーには飛鳥ミノルの愛車としてミウラを使っていたから、関根さんはミウラのレーシング仕様としてイオタに乗る“潮来のオックス”として登場してもらった。もちろん名前の意味は関根さんの地元である「潮来」と「牛」を合体させたもの。

関根:ボクの茨城弁はフランス語みたいに聞こえるでしょ? フランス訛りの茨城弁はおしゃれなんだよ、おしゃれ(笑)。

池沢:初めて関根さんのミウラを運転させてもらった時、自分が最初に憧れたスーパーカーのミウラを今、自ら運転しているーって! まあ365BBの方がマイルドでミウラのほうがいい意味で荒々しかった。興奮度が半端なかった。

関根:そうだね。イメージ的にはフェラーリの方がシャープそうに見えるけど、実際に乗り比べてみるとミウラの方がソリッドだもんね。一般道ではステアリングは軽いんだけどミウラの方が圧倒的に乗りにくい(笑)。

池沢:でもミウラは圧倒的にスタイルが美しかった。ミウラに乗って街中を走っていて、ショーウインドウに映る姿を見て自分に酔いしれる。そんな自己満足を満たしてくれるのがミウラの魅力でしょ。

関根:確かに、ミウラは女性的な流れるラインが魅力だったし、その後継モデルのカウンタックは真逆の男らしさが際立っていたよね。

池沢:女性的なミウラと男性的なカウンタック。この劇的なスイッチには驚かされたけど、どちらも乗ってみると「猛牛」であることは変わらない。ランボルギーニはフェラーリのライバルでありながらも、全く違った個性があるからファンも多いんだよね。

関根:特にカウンタックは前衛的なデザインだったし、シザースドアには度肝を抜かれた。ドアが上に跳ね上がる・・・凄い発想だよね(笑)。それにカウンタックは後ろが見ずらくて、サイドシルに腰掛けて後方確認しながら後退する「カウンタックリバース」なんて技もあったなあ。

池沢:よくみんなカウンタックは後ろが見えないって言うけど、斜め後方だけなんだよね。カウンタックの車両感覚を身につけたオーナーならバックも不便は感じない。「カウンタックリバース」は目立ちたがりなオーナーが必要もないのにやっていただけ。自分でも1979年のLP400Sに乗っていて、アクセルペダルが繊細なアクセルワークを拒否するように無骨だったのは難点だったけど。エンジンもフェラーリに比べるとレスポンスが重かった。まだランボルギーニらしさ全開だったね。

関根:ランボルギーニは不便にお金を払って乗るクルマ(笑)。でも、それはディアブロまでかな?

池沢:ランボルギーニを新旧で分けるならディアブロまでが正解だと思う。ミウラ、カウンタック、ディアブロは個体差も大きかったし、その精度の悪さも旧き佳き時代のランボルギーニ。

関根:2000年代になってムルシエラゴがデビューすると、一気にランボルギーニは壊れなくなった。アウディ傘下になったのは大きいよね。

池沢:アウディの血が入った瞬間、イタリアの猛牛がスマートになった気がする。でも、この進化はランボルギーニにとっては良かったと思うんだ。新旧の境目になったディアブロは少し迷走していた感があったからね。

ワイルドさを残しつつ完成度が高まった新世代のランボ

関根:ムルシエラゴの登場でランボルギーニに対するネガティブな印象が一気に消えたよね。特にディアブロの乱暴さというか破天荒なイメージは全くなくなって、質の高いスポーツカーメーカーになっちゃった(笑)。

池沢:アウディR8の兄弟車だから完成度が高くなったのは当然のこと。でも、ムルシエラゴの登場から、ランボルギーニを手に入れる人のキャラクターが変わってきたよね。

関根:ミウラ、カウンタック、ディアブロの時代は完全なマニアだったけど、ムルシエラゴが発売されてから、ユーザーは質の高いスポーツカーを求める人になった。時代と言えば時代なんだけど、趣味性という部分では希薄になった気がするんだよね。

池沢:スタイルはスーパーカーではあるんだけど、カウンタックがデビューした当時のようなインパクトは感じなかった。でも、乗ってみるとスムーズだし速い。スーパーカーではなくスーパースポーツに舵を切りだしたことが分かるクルマだよね。

関根:スーパーカーが好きなボク達世代にとって「壊れない」ことは羨ましいことだけど、少しだけ寂しい気がする。簡単にエンジンがかかるし、スタイルを優先した無理な設計がないぶんだけ快適。でも、何だか寂しいと思うのは旧き佳き時代のスーパーカーを知る人間のエゴなのかも知れないね。

池沢:ムルシエラゴからガヤルドになって更に完成度は上がったでしょ。この進化はポルシェやフェラーリに対して肩を並べた証になった。もし、アウディの血が入らなければ、ランボルギーニは時代に取り残された化石になっていたかもしれない。そう考えるとアウディ傘下になったことは正解だったと思う。

関根:ガヤルドは1万4000台以上も売れた、ランボルギーニ最大のヒット作だからね。世界中のファンが認めたってことだし、ガヤルドの魅力が大きかったんだろうね。今はウラカンにスイッチされているけど、その功績は大きい。

池沢:2007年に登場した20台限定のレヴェントンはステルス戦闘機をモチーフにした戦闘的なスタイルがカッコイイ。ムルシエラゴをベースにしているから、昔で言うイオタみたいなものかな?

関根:完成度が上がって、特別感のあるレヴェントンは魅力的だよね。見ているだけでもワクワクする(笑)。

池沢:ムルシエラゴの最終進化版がレヴェントン。そのムルシエラゴの後継モデルとして登場したアヴェンタドールはさらに完成度が高くなっている。そういえば関根さんもアヴェンタドールに乗っているよね?

関根:最初は買う気なかったんだけど、旅先で湖の外周路を走っているアヴェンタドールに遭遇して・・・ひと目惚れ。買っちゃいました(笑)。

池沢:ボクはまだ、しっかりと運転したことがないんだけど、ランボルギーニ使いの“潮来のオックス”としてはどう感じたの?

関根:完成度の高さはもの凄いものがある。イタリア車のエッチさがありながらも、完成度はドイツ車。キッチリ感やしっかり感はハイレベルだし、アクセルに対してエンジンのレスポンスは抜群。ステアリングにもクセがないからドライブも快適だよ。新しい時代のランボルギーニって感じ。ミウラの頃は手作り感が満載で、雨漏りやすきま風が当たり前だったけど、アヴェンタドールはメルセデスのようなキッチリ感がある。実はもう一台、アヴェンタドールを手に入れたんだけど、違う車両なのに個体差が無い。昔のランボルギーニは当たりハズレがあったけど、今のランボルギーニは品質が均一(笑)。今度、2台連ねてドライブに行こうよ。

池沢:それは楽しみだなぁ(笑)。でも、関根さんがそこまで評価するのはランボルギーニの楽しさが残っているってことだよね。

関根:今でもライバルとされるフェラーリに比べて、旧き佳き時代の乱暴さというか野性的な印象が残っている。アウディの傘下になっても「魂」の部分は大切にされているのは嬉しいよね。

池沢:ウラカンGT3はモータースポーツの世界で良い成績を収めているし、存在感も発揮している。かつて1995年に全日本GT選手権(編注:スーパーGTの前身)で世界初のレース仕様のランボルギーニ・ディアブロ・イオタでレースしていたのが懐かしい。カッコばかりと言われていたランボルギーニが今や、フェラーリやポルシェらとサーキットで争っているのがボクにとってはメチャクチャ嬉しい。まさしく本物のファイティングブルになることができた。でも、今年はアウディ傘下からポルシェの傘下になるって噂もある。そうなると、ランボルギーニが更にドイツ車化しそうで心配だなぁ。

TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)

PHOTO/降旗俊明(Toshiaki FURIHATA)