MotoGP:超接戦の優勝争いを展開したリンスとマルケス、それぞれを襲っていた『想定外』

 MotoGP第12戦イギリスGPのトップ争いは、最終ラップの最終コーナーまでもつれこんだ。制したのはチーム・スズキ・エクスターのアレックス・リンス。最後まで争ったマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)を破り、2019年シーズン2勝目を挙げた。しかし実は、リンスは残り2周の時点で大きな勘違いを犯していた。

 テール・トゥ・ノーズが続いたトップ争いは、最後までその激しさを保ったままチェッカーを迎えた。優勝したリンスと2位のマルケスとの差は、わずかに0.013秒。この差はロードレース世界選手権の最高峰クラスのトップと2位との差で4番目に小さいタイム差だったという。ちなみに最もタイム差が小さいレースとして記録されているのは、1975年アッセンのバリー・シーンとジャスモ・アゴスチーニで、同着タイムである。

 ラスト2周、リンスは最終コーナーでマルケスをアウト側から交わそうと仕掛けた。しかしマルケスはそれを許さない。最終ラップでもドッグファイトは続き、最終コーナーの進入ではマルケスがトップ。しかし立ち上がりでリンスは素早くマシンをイン側に振り、一気に加速。ほんのわずかの差でマルケスよりも前でチェッカーを受けた。

レース序盤からテール・トゥ・ノーズのトップ争いを展開したリンスとマルケス
レース序盤からテール・トゥ・ノーズのトップ争いを展開したリンスとマルケス

 こうして見るとリンスが残り2周でアウト側にラインを取ったのは最終ラップへの布石とも思えるが、実際は違った。リンスは残り2周の最終コーナーまで、周回数を勘違いしていたのだ。残り2周の最終コーナーで「あともう1周あるとわかった」と、リンスは決勝後の会見で語った。

 ともあれ本来の“最終ラップ”で見事、マルケスを制したリンス。その前は第3戦アメリカズGPではマルケスが早々に転倒リタイアを喫し、バレンティーノ・ロッシ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)を残り5周でとらえて優勝している。

「今日の優勝は信じられない。オースティン(第3戦アメリカズGP)ではバレンティーノを破って勝った。そして、ここではマルクを下して勝った。どちらもとても速く、そして“伝説”のライダーだ」と、リンスはふたつの勝利について語った。

 リンスは、イギリスGPでは「マルクに勝つのは難しいだろうと思っていた」と言う。「けれど、挑戦したかった。いくつかのセクターでは、マルクは僕よりも速かったけれど、僕はほかのエリアでそれをカバーした。終盤には僕のペースの方がいいとも感じていたんだ」

■結果に満足も悔しさをにじませるマルケス

 一方、それぞれ役者は違うとはいえ、第11戦オーストリアGPではアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)に、そしてイギリスGPではリンスに最終コーナーで敗れたマルケス。

「一度、ペースを落としてリンスを先に行かせてみようと思ったんだけど、彼はそうしなかった。(マーベリック・)ビニャーレスも迫っていたから、攻め続けたんだ」と言う。さらに「最終コーナーではフロントがスライドしたから、アクセルを緩めなくてはいけなくて、リンスに交わされてしまった」とも最後の勝負に敗れた要因を語った。

パルクフェルメで健闘を称え合うふたり。とは言え2戦連続、僅差で敗れたマルケスの胸中やいかに
パルクフェルメで健闘を称え合うふたり。とは言え2戦連続、僅差で敗れたマルケスの胸中やいかに

 マルケスにしてみれば、自分の戦略にリンスがうまくはまらず、最後はフロントがスライドしたためにやられてしまった……ということのようだ。「チャンピオンシップを考えると、この結果は満足」と言いながらも「レースという点では、最後まで僕がリードしていながら優勝できなかったのだから、最高の気分というわけにはいかない」と悔しさをにじませている。

 レースが終わったあと、クールダウンラップでリンスはマルケスに握手を求めた。マルケスが応じたあと、リンスは両手をかざし、ガッツポーズで走り去る。マルケスは悔しさを抑えきれないように、大きく上体をのけぞらせて天をあおいだ。レース後のこのふたりのシーンが、互いの心情をよく表していた。