最速エースの重圧に苦しんだガスリー。前半戦の流れを決定づけた冬季テストのクラッシュ【今宮純のチームメイト対決】

 チームメイトに前半戦で得点差をつけられたメルセデスのバルテリ・ボッタス、フェラーリのシャルル・ルクレール、レッドブル・ホンダのピエール・ガスリーたち。彼らはどこからじりじりと引き離されていったのか。その“クロスポイント”をたどってみよう。
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*メルセデス チームメイトのポイント比較
 ランキング1位:ルイス・ハミルトン(250点)
 ランキング2位:バルテリ・ボッタス(188点)

2019年F1第11戦ドイツGP メルセデスF1チームの集合写真
2019年F1第11戦ドイツGP メルセデスF1チームの集合写真

 第5戦スペインGPでは3連続PPを決め、2勝と2位3回を重ねたボッタスはハミルトンに迫る“7点差”につけていた。シリーズ序盤を一時リード、予選でも遜色ないアグレッシブさをアピール。昨年と違う引き締まった表情、加入3年目を迎え気迫も充分だったのだが。

 モナコGPのハミルトンはこれまでPPが1度だけ、彼にしては少ない。2年前にはワーストと言える予選14番手、3番手ボッタスに負けている。

 今年の挑戦者ボッタスはQ1を3番手、Q2を2番手、セクター1と2で最速タイムをマークしQ3に賭けた。1本目に1分10秒252でトップ、ハミルトンは1分10秒483で及ばない。ところが王者ハミルトンは、2本目に0.317秒も削る1分10秒166のスーパーラップを見せつけ、PPをボッタスから奪いとった。

 ショックを受けたボッタスはこう言わねばならなかった。「ウオームアップがうまくなかった。セクター1の入りが劣り、ラップをまとめきれなかった」。

 最後に“隠しポケット”からすべてをひき出し突き放したハミルトン。モナコ全力アタックに完敗したボッタス。この後のボッタスは勢いを維持することができず未勝利のまま前半戦を終えた――。

■勢いに乗るシャルル・ルクレールに経験力で対応するセバスチャン・ベッテル

*フェラーリ チームメイトのポイント比較
 ランキング4位:セバスチャン・ベッテル(156点)
 ランキング5位:シャルル・ルクレール(132点)

2019年F1第9戦オーストリアGP セバスチャン・ベッテル、シャルル・ルクレール
2019年F1第9戦オーストリアGP セバスチャン・ベッテル、シャルル・ルクレール

 新鋭ルクレールは早く自己証明しなければという意識を強め、開幕からプレッシャーにひるまずプッシュしていた。(個人的には1970年代に大抜擢された故ジル・ビルヌーブのように映った)。ベッテルとはやや違う走行ラインを描き、鋭くクイックな攻めたコーナー・ワーク。もしも御大エンツォ・フェラーリが存命でいらっしゃったなら、惚れ込んだことだろう(ゴッドファーザー好みのタイプだ)。

 第2戦バーレーンGPでパワーユニット(PU/エンジン)のトラブルによって勝利を逃したルクレール。その心理的なショックが残っていたのか、第4戦アゼルバイジャンGP予選Q2で狭い8コーナーでクラッシュ。手前7コーナーの脱出は速くキープして行ったが減速ポイントがずれた。オーバースピードだった。

「ぼくはバカだった」と自分を責めるルクレール。フェラーリ4戦目の自虐的な言葉に率直な性格が感じられた。それからは予選時の“自己リミット・ゾーン”を設定し直し、セットアップ方向性も変えていった(ようだ)。

 それをベッテルが察知しないはずはない。前半終盤2戦に連続表彰台、レース・メーキングにおいてタイヤケアなど経験力を示してみせた。前半戦ルクレールのレッスン1は無我夢中にアタック、レッスン2は実戦研究に励んだ。後半これからは自己啓発のレッスン3に取り組んでいくだろう。

■トップチームの重圧に勝てなかったピエール・ガスリー

*レッドブル・ホンダ チームメイトのポイント比較
 ランキング3位:マックス・フェルスタッペン(181点)
 ランキング6位ピエール・ガスリー(63点)

2019年F1第3戦中国GP マックス・フェルスタッペン、ピエール・ガスリー
2019年F1第3戦中国GP マックス・フェルスタッペン、ピエール・ガスリー

 メルセデス開幕9連勝を止めたレッドブル・ホンダのフェルスタッペン。いまや完全なるチームリーダー、完璧なエースだ。この環境は1990年代中期の『ベネトン/ミハエル・シューマッハー』、2000年代前後の『フェラーリ/シューマッハー』と同じように見える。

 この環境のなかでガスリーは“ナンバー2”を意識せざるを得ず、重圧感を抱え込むようになっていった。そのきっかけが開幕前バルセロナテスト、2月19日(DAY2)と28日(DAY7)にクラッシュ。担当した4日間に2度、それでチームの開発プログラムは狂った。

 最初のクラッシュは12コーナー。中速エリアのここは特有の横・斜め風を受ける緩い登りで、ダイナミック・ダウンフォースのバランスによってコントロールがシビアになる。

 レッドブルRB15で走る初日のガスリーは入口で乱れ、そのまま出口でクラッシュ。彼のミスだがフェルスタッペンも指摘していたように、初試走段階のRB15は「ダウンフォース不足が低中速コーナーで顕著」だった。しかし、加入したばかりの彼はそうは言えない立場だ。

 次のクラッシュは高速9コーナー。ワイドな進入ラインで左フロント・タイヤがコースからはみ出たとたん、制御できずに大破。スペアパーツなどまだ充分ではなく、エースが担当した翌日の最終テストは中途半端な状況で終えることになった。

 ビッグチームに昇格した若いドライバーとしてこの“最悪デビュー”に、ガスリーは落ち込んだ。1年前ブレンドン・ハートレーと組んでいたときとは別人のように変わった(昨年は幸先よく第2戦バーレーンGPに4位している)。

 スランプから立ち直りかけたモナコGPでは最速ラップをマーク。だがひとつ年下のエースは第9戦オーストリアGPに勝ち、ガスリーは周回遅れ。レッドブルでなくてもどのチームであろうと決断すべきタイミングが迫り、8月12日に発表された。

 後半戦もフェルスタッペンの“ナンバー2”でいるより重圧から解放されるトロロッソに戻し、スランプ脱出の機会を与える配慮は今後の彼のためでもある。ガスリー自身が“解雇”ではなく、ポジティブに“転進”ととらえれば後半戦にスランプ脱出も……。

 ベルギーGPからの9レース、ボッタスとルクレールとガスリーたちには新たなシーズンに向かう気概でくじけずに、チームメイト対決に向かってもらいたい。