電動ストックオプションとはなにか? 電動化推進の裏側にあるものを探る【牧野茂雄の自動業界車鳥瞰図】

トヨタが車両電動化計画を従来の目標よりも約5年前倒しすると発表した。純粋にバッテリーだけで走る電動自動車(BEV)の量産を来年から中国で開始し、全世界で10車種以上を2020年代前半に揃える。2025年にBEVおよびFCEV(燃料電池燃料自動車)の販売台数を100万台以上とする計画だ。果たしてこのvはなにか。

 日本のメディアはよく「トヨタは電動化で出遅れた」という表現を使う。これはまったくの誤解だ。技術開発と経営判断は別物である。世界初の量産HEV(トヨタはHVという略語を使うが本稿ではHEVとする)「プリウス」を22年前の1997年12月に発売し、現在ではHEVのフルラインアップを持つ。そのすべてにTHS=トヨタ・ハイブリッド・システムと包括的に呼ばれる独自開発の技術を使う。世界的に「ストロングHEV」と呼ばれるカテゴリーにずらりと車種を揃えるのはトヨタだけであり、同時にハイブリッドシステムのバリエーションもFF用、FR用ともに豊富だ。

 以前本誌に記したように、初代プリウスの開発段階では約80タイプの「電動化技術」を比較し、さまざまな検討を経て構造が決まった。80のなかから最終的に5方式に絞り込み、さらに詳細な検討と試作を行なった。このときからトヨタは、世界のどの自動車メーカーよりも電動化技術に踏み込んでいた。当時、HEVについては「シリーズかパラレルか」の議論があったが、トヨタのシリーズ・パラレル方式の登場をもってこの議論に終止符が打たれた。

 98年1月のデトロイト・ショーはプリウスの話題で持ちきりだった。のちにGM、ダイムラークライスラー(当時)、BMWがHEV共同開発で提携し、2モードと呼ばれるFR用のシステムが誕生する。プリウスへの危機感が大手メーカーを動かした。フォードはアイシングループからのシステム調達を決め、欧州勢の多くはHEVではなく過給ディーゼルへと研究開発の資源を集中させた。

 筆者は95年の開発着手当時から現在に至るまで、公式非公式織り混ぜたトヨタおよびサプライヤーの取材を通じてトヨタのHEVを見てきた。HEVは内燃機関エンジン/電動モーター/発電機/バッテリー/制御回路などで構成されるが、トヨタ方式のストロングHEVはとくに緻密な制御が必須であり、いってみれば日本的なすり合わせ技術の結晶である。

 欧州で生まれた1モーター2クラッチは、エンジン負荷が大きくなる領域だけ電動モーターで押す方式であり、ドライバビリティからいえば大正解なのだが、燃費チャンピオンにこだわるトヨタは一瞬マイルドHEVに寄り道しただけだった。近年はモーターと発電機を並列に置いてエンジン逆転をワンウェイクラッチで防ぐ新しいTHSに移行し、これをベースに新しいPHEV(プラグインハイブリッド車)を仕立てたが、じつは95年の段階でこの構想を持っていた。当時はモーター直径が大きくて実現しなかっただけの話である。

 ここ数年、トヨタは「Eリッチ」を標榜してきた。Eは電動化(エレクトリフィケーション)のEである。HEVを商品の中心に据えながら、HEVで電動走行領域の拡大を積極的に狙ってきた。ただしHEVに大量のバッテリーを積めばコストと重量が増す。これを抑えながら「燃費優先のHEV」を磨いてきた。電池大量搭載オプションとしてのBEVについても、じつは相当に研究開発を行なっている。

 九州大学に目代武史准教授を訪れたとき、トヨタのHEV戦略は「BEVだけ、HEVだけ、内燃機関だけという選択に対し、将来の不確実性が大きい状況で、どのようなパワートレーンの下振れがあってもリスクヘッジできるリアルオプションです」と聞かされた。筆者もまったく同感だった。HEVが「化石燃料<電池」になればPHEVであり、エンジンを発電に特化すればシリーズHEVになる。「いつでもこういうオプションを行使できることがトヨタの強みです」と目代准教授はおっしゃった。

 電動化技術のキーは2次電池であり、電池を中心に据えればわかりやすい。2次電池の体積・重量あたりのコストとエネルギー密度/出力密度の関係である。今回、トヨタは電池調達方針の大転換を発表している。従来はパナソニックだけをパートナーに垂直統合で行なってきた2次電池の開発・調達をあらため、GSユアサ、東芝、さらには中国のCATL(寧徳時代新能源科技)とBYD(恵州比亜迪電池)からの調達も行なうと発表した。電池の大量購買ルートを確保できたのだ。