FIAT 500X Cross:500Xの世界観を楽しむクルマ。でも苦手なシーンがある

フィアット500の兄貴分と言おうか。2015年に国内デビューしたフィアット500Xは、いまもっとも競争が激しいスモールSUVというカテゴリーに属している。今年4月にエンジンが刷新され、注目のダウンサイジングターボエンジン、1.3FireFlyが搭載された。エンジン技術に明るいジャーナリスト、世良耕太がテストする。
TEXT & PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)

「500X」は「ゴヒャク・エックス」ではなく、「チンクエチェント・エックス」と読む

 フィアット500Xである。「500X」は「ゴヒャク・エックス」ではなく、「チンクエチェント・エックス」と読む。どなた様もお間違いのなきよう。つい最近500(「ゴヒャク」ではなく「チンクエチェント」である)に乗ったので、ついつい比較してしまう。

 500Xは500の兄貴分なのか親なのか設定はわからないが、ともかく、500Xは500より大きい。が、500倍ほどには大きくはない。サイズを比較してみよう。

500  全長×全幅×全高:3570×1625×1515mm ホイールベース2300mm
500X 全長×全幅×全高:4280×1795×1610mm ホイールベース2570mm

 500Xは500に比べて710mmも長く、170mm幅広く、95mm背が高い。500は乗員が乗り降りするドアが2枚しかないのに対し、500Xは4枚あるのが大きな違いで、後席の居住性にも大きな開きがある。500が比較対象だと500Xはずいぶん大きなクルマに感じられるが、全長×全幅はVWゴルフとオーバーラップする。500が極端に小さいのであって、実際には500Xも充分にコンパクトだ。

こちらが500X
で、こっちが500

 500は全身でかわいらしさをアピールしているが、500Xはそうでもなく、共通のモチーフを多用しながらも大人っぽくまとめている。エクステリアもそうだがインテリアもそうで、ダッシュボードにボディと同色パネルを配している点は両者で共通している。500は真円の反復が徹底しているが、500Xはそこまで徹底させておらず、左右の空調ルーバーやシフトゲートまわりは真円モチーフから離れている。

プラットフォームは500とはまったく別物。サスペンションは4輪ストラットだ。

 メカニズムは共通項が少ない。プラットフォームは完全に別だ。サスペンションは500が前ストラット/後トーションビームなのに対し、500Xは4輪ストラットだ。エンジンは500が1.2ℓ直4自然吸気または0.9ℓ直2ターボと5速AMTを組み合わせるのに対し、500Xは1.3ℓ直4ターボと6速DCTの組み合わせだ。

エンジン 形式:1.2ℓ直列3気筒DOHCターボ 型式:55282328 排気量:1331cc ボア×ストローク:70.0mm×86.5mm 圧縮比:10.5 最高出力:151ps(111kW)/5500rpm 最大トルク:270Nm/1850rpm)
ターボはツインスクロールではなくシングルスクロール。前方排気の搭載位置である。

 2015年のデビュー当時、500Xは1.4ℓ直4ターボエンジンを積んでいたが、19年5月のマイナーチェンジで新開発の1.3ℓ直4ターボに切り替わった。「FIRE」のペットネームを持つ1.4ℓ版の最高出力/最大トルクは102kW/250Nmだったが、「FireFly」のペットネームが与えられた新世代エンジンは、110kW/270Nmの最高出力/最大トルクを発生する。排気量は小さくなっているのに(実際は0.1ℓも違わなくて、36ccなのだが……)、性能は向上している。

 油圧を利用して吸気バルブの開閉タイミングとリフト量を可変制御する、フィアットお家芸のマルチエアは最新のマルチエアIIに進化しており、早閉じ/遅閉じミラーサイクルを運転状況に応じて使い分けて効率を大きく向上させているという触れ込みだ。

 激しい物忘れを恥じなければいけなくて、6速DCTを搭載していると知って「どこのだっけ?」などと勘ぐってしまった。いやいや、他社から調達するなどとんでもない。内製である。FPT(Fiat Powertrain Technologies)が開発したデュアル・クラッチ・トランスミッションで、2010年にはアルファロメオのMiToに搭載されている。型式名はC635DDCTであり、許容トルク容量は350Nm、クラッチは乾式だ。

 なぜ他社製と勘ぐったかというと、適合に「?」と感じるシーンがあったからだ。例えば、幹線道路で渋滞しており、発進して少し走っては停止を繰り返すシーン。2速に入った状態でアクセルペダルを操作して速度をコントロールしながら前に進んでいると、パワートレーン系が共振してガクガクした振動が伝わってくることがある。このようなシーンに限らず、市街地を移動する際はパワートレーン由来のギクシャクした動きが出がちだった。

 重たい車重が小さな排気量のエンジンに無理強いをしているような気がする。試乗した500X Crossの車重は1440kgだ。これまでの経験から照らし合わせるに、1.3ℓ過給エンジンでストレスなく走らせるには、1300kg+αまでが限界な気がする。過給ダウンサイジングエンジンの場合、100ccあたり100kgが目安だ。

 500Xが搭載する1.3FireFlyは車重に対して排気量が小さすぎるきらいはあるが、幹線道路でも高速道路でも、緩く加速するシーンではストレスフリーで、アクセルペダルの動きに即座に反応して、頼もしい加速感で応えてくれる。

 一方で、ストレスを感じたのは次のようなシーンだ。片側2車線の左側車線で周囲の流れに合わせて気持ち良く走っていたところ、前のクルマがガソリンスタンドに入るために減速した。それを見て、こちらも減速。完全停止までは至らないものの、極低速まで車速は落ちた。そこから、速度を回復させようとアクセルペダルを強めに踏み込んだところが、「ん、来ない!」となった。

 内燃機関を積んでいる限り、程度の大小こそあれ応答遅れはつきもので、500Xに固有の問題ではない。ただし、小排気量過給エンジンで重たいクルマを動かしているがために、苦手なシーンもあると覚悟しておきたい。

 タイヤ〜サスペンション〜ボディが連携して提供する乗り心地は、典型的なヒョコヒョコ系である。イタリアのクルマに乗るといつも思うのだが、500Xに乗ったときも、「そんな細かいこと気にするなよ」と、クルマに諭された気がした。細かいことを気にせずに、500Xの世界観とムードを楽しめということである。

タイヤは215/55R17
ラゲッジルーム容量は350ℓ。後席を倒せば1000ℓになる。

最小回転半径は5.5m

FIAT 500X クロス
全長×全幅×全高:4280mm×1795mm×1610mm
ホイールベース:2570mm
車重:1440kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rマクファーソンストラット式
駆動方式:FF
エンジン
形式:1.2ℓ直列3気筒DOHCターボ
型式:55282328
排気量:1331cc
ボア×ストローク:70.0mm×86.5mm
圧縮比:10.5
最高出力:151ps(111kW)/5500rpm
最大トルク:270Nm/1850rpm)
燃料タンク容量:48ℓ
燃料:無鉛プレミアム
トランスミッション:6速DCT
WLTCモード燃費:13.5km/ℓ
 市街地モード:10.4km/ℓ
 郊外モード:13.6km/ℓ
 高速道路モード:15.4km/ℓ
車両本体価格:334万円