アストンマーティンで戦ったふたり、新型ヴァンテージを語る【対談:桂 伸一 × ダレン・ターナー】

アストンマーティンで戦ったふたり、新型ヴァンテージを語る【対談:桂 伸一 × ダレン・ターナー】

ニュル24時間レースで共に戦ったふたりが再会

FIA世界耐久選手権(WEC)やブリティッシュGT選手権など、さまざまなレースをアストンマーティンのワークスドライバーとして戦っている英国人ドライバー、ダレン・ターナー。そして日本の自動車ジャーナリストであり、現役のレーシングドライバーでもある桂 伸一。ふたりはかつてニュルブルクリンク24時間レースでひとつのシートを温めあったチームメイトでもある。そのときのマシンは、先代アストンマーティン・ヴァンテージだった。

今回ダレン・ターナーは、スーパーGT 富士500マイルレースに参戦する「D’ station Vantage GT3」の第3ドライバーとして来日。それにあわせて、かつての同志が再会する運びとなった。3代目ヴァンテージで真剣勝負を戦った彼らは、2018年に生まれ変わった新型ヴァンテージをどう見るのか。同じ釜の飯をわけあったふたりだからこその、ここでしか聞けないアストンマーティン談義を交わしてもらった。

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桂 伸一(以下、桂):久しぶりだね。

ダレン・ターナー(以下、ダレン):去年は富士のWECには行かなかったから、2〜3年ぶりかな。

桂:今年のニュルブルクリンク24時間はどうだった? 僕もデヴィッド・キングに「出してね」って言ってたんだけど、残念ながら出られなくて。新しいヴァンテージをニュルブルクリンクで試してみたかったんだよね。

ダレン:ヴァンテージAMR GT4は、まずレースしていて本当に楽しいクルマ。最初の5〜6時間はクラスをリードしていたんだけど、ちょっとしたアクシデントで修理に1時間ほどかかってしまい、最終的に僕らのマシンはクラス4位でした。でももう1台はクラス優勝できたし、僕らの方もアクシデント以外に目立ったメカトラブルはなかった。GT4での初レースという意味では、相当なパフォーマンスを発揮してくれたと思います。

新型ヴァンテージの印象

桂:昨年モデルチェンジして4代目になったロードカーのヴァンテージも相当ハンドリングがいいよね。

ダレン:スタイリングを含めて、新旧ヴァンテージで流用している部分はほとんど無し。ドライビングエクスペリエンスも大きく変化しているということははっきり言えると思います。エンジンとギヤボックスのマッチングが素晴らしくて、流れるように、シームレスに溶け合っているんですよね。一旦運転してしまうと、ドライバーズシートから降りたくなくなってしまう、そんなクルマになっています。

桂:新しくなった電子制御リヤ・ディファレンシャル(=Eデフ)が効いてますね。駆動力がかかりやすくて曲がりやすい。

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ダレン:新型ヴァンテージは大きく進歩していますが、Eデフがそこで果たしている役割はとても大きい。初めてニュルブルクリンクのノルドシュライフェで乗ったときは、本当に驚きました。明らかに旧型とは違うと感じるコーナーがいくつかありました。Eデフだとメカニカルな装置よりもチューニングの幅が広いので、良い意味でドライビングエクスペリエンスに影響をもたらしていると思います。

桂:どこのコーナーが特に良くなってた?

ダレン:フルークプラッツ。普通はクルマがどんどん外に出ていってしまうはずなのに、ノーマルのヴァンテージでさえ、スロットルペダルを踏み込んでいくとどんどん中に入って曲がってくれるのがはっきりとわかりました。ハンドリングやパフォーマンスがシャープで、一層磨きがかかったように感じられるのはEデフの貢献度が大きいと思いますよ。

桂:旧型のヴァンテージはシングルクラッチ式の2ペダルMTだったので、変速時にギクシャクする感じが否めなかった。だから、個人的には乗るならMTのほうがいいかと思っていたけど、新型はオートマチック・トランスミッションがすごく良い。

ダレン:桂さんが感じたように、ATはレスポンスが良くてパフォーマンスに優れています。ノーマルの環境下ではパーフェクト。ひとたびDレンジに入れておけば、あとはクルマ任せでも相当いい走りをしてくれます。もっと積極的に運転に関与したいときは、パドルシフトを使えばいい。

ダレンが開発に携わったヴァンテージ

桂:7速MTを搭載したAMRも追加されたけど、そちらはどうですか。

ダレン:MTは“Dog Leg”と言われる、1速をHパターンから離したレイアウトパターンを採用しています。こちらも本当にいいギヤボックスに仕上がっているし、積極的に運転したい人にとってはとても楽しいクルマだと思います。

桂:MTとAT、それぞれどんな人が乗るといいと思いますか。

ダレン:ATは毎日クルマを使いたいという方。もちろん、いざとなればパドルシフトを使って運転を楽しむことができます。MTを選ぶのは、ドライバーとしての経験値が高い方でしょうね。ヴァンテージにピュアなドライビングエクスペリエンスを求めているような。ウィークデーは都市部で忙しく仕事をしていて、週末にはその喧騒から離れてドライビングを楽しみたい、そういう人にはMTがフィットすると思います。

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桂:新型ヴァンテージの開発にはずいぶん関わった?

ダレン:マット・ベッカーのチームやデヴィッド・キングなど様々な開発エンジニアから、乗ってくれと言われたら参加して意見を言うような形ですね。以前と比べて開発の方に関わる比重は増えていると思う。

桂:今回のヴァンテージの開発のときに印象的だったことは?

ダレン:ニュルブルクリンクのノルドシュライフェで乗ったとき、旧型での経験もあったので、新型がここまで良くなるというのはいい意味での驚きだった。走行セッションを終えてベッカーのチームにレポートを出したのですが、僕の意見とベッカーのチームが考えていたこと、それに他の開発ドライバーの思いも、すべてが完全に一致していたんです。つまり開発に関わっていた人は、テストに携わった僕を含めて全員が同じ意見だったこと。僕の本業はレーシングドライバーだから、ショールームへ行くいわゆるオーナーの皆様とはニーズが違う。究極のパフォーマンスを追求するのか、日常性か。その間のうまい落としどころを見つけるのが開発チームの腕の見せ所だと思います。例えば新型ヴァンテージにはサスペンションのセットアップを3段階に切り替えられる懐の深さがあったりする。そのあたりの塩梅が、ベッカーのチームのすごいところではないでしょうか。

桂:なるほど。ところで新しいDBXにはもう乗った?

ダレン:ほんの1マイルだけ(笑)。グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードのヒルクライムのコースでね。40km/hくらいしか出していないけど、それでもSUVとしては相当のパフォーマンスだと感じました。想像以上でしたね。

スーパー耐久では、いきなり優勝を手にしたダレン

桂:ダレンといえば、今年3月に鈴鹿で開催されたスーパー耐久で、ヴァンテージGT3でいきなりの優勝。アストンマーティンの走らせ方に何か秘訣があるのでは。

ダレン:経験こそすべてだと思います。GT3もGT4もワークスドライバーとして開発に携わっているので、何十、何百とテストを繰り返してきましたから。それにスーパー耐久で言うと、タイヤがピレリだったというのも大きかった。ブリティッシュGT選手権で使っているタイヤと特性がよく似ているのがアドバンテージになりました。クルマがわかっているし、タイヤもわかっている。わかっていなかったのはサーキットだけ。鈴鹿サーキットは初めてでしたが、シミュレーターで何度も走ってバーチャルな経験は積んでいました。新しいサーキットに行くときは、必ずシミュレーターで事前走行するんです。

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桂:ダレンがやっぱりプロのレーサーだなと実感するのは、僕が頑張ってタイムを少しあげると、その記録をきちんと上回ってくるところ(笑)。レーシングドライバーにとって、それはとても重要な部分です。

ダレン:それなりのところで戦っているドライバーというのは、高いところでレベルが安定しているもの。その中でどうチームに適応していくのか、あるいはチームを適応させるのかというのが大切になります。その点、桂さんはチームメイトを気持ちよくすることに長けている。

桂:マッサージもうまいからね(笑)。

ダレン:まだやってもらったことがない。今度是非(笑)。

桂:アストンマーティンのラインナップで、個人的に欲しいと思うのは?

ダレン:DBSヴォランテ。それとDB4GTザガート・・・は高すぎる(笑)。僕には小さな子供が2人いるので、子供たちは太陽を見ながらのドライブ、自分はDBSのパフォーマンスを楽しむことができるヴォランテがいいですね。

桂:うちの子供はふたりとももう成人して妻とふたりで乗るから、やっぱりヴァンテージがぴったりかな!

PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)