クルマとタイヤを活かしきれ。GT300ならではの戦略がぶつかり合った500マイル《第5戦富士GT300決勝あと読み》

「なんで87(T-DASH ランボルギーニGT3)がトップにいるのか、全然分からなかった」。長丁場の500マイルのレースとなったスーパーGT第5戦富士の決勝後、多くのチームの関係者からそんな声が聞かれた。嬉しい優勝を飾った高橋翼/アンドレ・クート/藤波清斗組T-DASH ランボルギーニGT3が採った驚きの戦略と、それに対抗したライバルたちの戦略を振り返ってみよう。

 シーズン最長の500マイルレースにして、ボーナスポイントも獲得できるシリーズのヤマ場とも言える第5戦富士。このレースでは、『決勝レーススタート後(フォーメーションラップを終了し、スタートラインを通過した後)、ドライバー交代を伴う最低4回のピットインが義務付けられる』という大会特別規則があるが、これをどうこなしていくのかが、ある意味レースのポイントとなった。当然ピットストップ回数は少ない方がいいが、3回以下にはできない。

 ただ、ピットストップをすればOK……という意味にもとれる。これを突いたのがT-DASH フロンティア ランボルギーニGT3だったのだ。スタート時の順位は13番手。そこからクートがステアリングを握り序盤を戦ったものの、大きく順位を上げるでもなく上位陣の後方で「スティントの目安はだいたい40周だったから、かなりドライバーにとってもタイヤにとっても厳しかったけど(クート)」とレースを進めていた。

 T-DASH ランボルギーニ GT3が採った戦略は、まずファーストスティントを長めに引っ張った。クートはその間、タイヤをもたせることに終始。当初40周目までを予定していたが、状況をみて39周でピットに入った。ここではタイヤ交換と給油を行い、藤波に交代する通常の作業を行っている。

 しかし驚きなのはその次だ。藤波は1周でピットに戻ると、給油とドライバー交代を実施。高橋に代わり、その後は藤波、クートと繋いだのだ。つまり、ピットストップの回数のうち1回を「非常に短い静止時間」で送り出したということだ。それ以外は通常の給油とタイヤ4本交換を行っているが、それでも1回分のストップ時間を稼ぎ出したのは大きかった。

 難しいのは、細かい差で計算が成り立たなくなってしまうこと、そして不測の事態があったときに余裕がなくなってしまうこと。さらに、ペースがそれなりに良くなければ成り立たない戦略だった。また、ウラカンGT3は燃費がいいと言われており、他のGT3車両では成り立たない戦略だったのは多くのチームが口を揃えている。

 しかし、ドライバー3人とチームの頑張りがこの好結果に繋がったという。聞けば、このピットアウト~即ピットインのために、ウォームアップでそのための練習も行っていたという。ドライバーとしてみればそんな役回りを務めるのは嫌かもしれないが、「賭けでもありましたが、マッチすれば勝つこともできるとのことだったので勝負に出ました」としっかりこなした藤波、そして好ペースで走り続けた3人の勝利と言えるだろう。

「アウト~インで藤波選手がピットに入ってタイムを稼げたので、あれがいちばんの勝利の要因だと思います。エンジニアが考えてくれた作戦がうまくハマりました。僕自身も今年が初のフル参戦で表彰台も初めてだったので、1位を獲れてホッとしています」と高橋は初優勝を喜んだ。

 また2015年以来の優勝となったクートも「この場を借りて、チームにおめでとうと伝えたい。本当にパーフェクトな戦略だったと思う。タイヤが良くなければ勝つことができないけど、ヨコハマが今回持ってきたタイヤは素晴らしかった。振り返ると最高の一日になったよ」と喜びを語っている。

 そして、今回第3ドライバーとしてレギュラーのふたりを支えた藤波は「いつでも準備しているし、チームに帯同して勉強になることもあるので、今後もチームに貢献しつつ勉強もして応援をしたいです」とコメントを残している。

■ダブルスティント&トリプルスティントでつないだ埼玉トヨペットGB マークX

 このT-DASH ランボルギーニGT3に対して2位に食い込んだのは、ポールポジションからスタートした埼玉トヨペットGB マークX MC。こちらも驚きの戦略と言えるのが、1度目のピットでタイヤ無交換作戦を実施。2度目ではタイヤ交換を行ったが、3度目、4度目はまた無交換。なんとダブルスティントとトリプルスティントというタイヤの使い方をしたのだ。当然その分、4回中3回のピットを30秒前後のタイムでピットアウトすることができる。

「自分たちなりのベストは尽くせたかなと思います。セーフティカーを自分たちが有利になるように使えた時もありましたし、他のチームが有利になるような時もありましたけど」というのは吉田広樹だ。

 また、脇阪薫一は「ひとつ言えるのは、ブリヂストンさんのタイヤと僕たちのクルマはまだ完全にマッチしていないということ。まだまだ余力を残しているというか、タイヤを使い切れていないんですよ」というから驚きだ。

 ちなみに、埼玉トヨペットGB マークX MCは同じマザーシャシーであるHOPPY 86 MCをある意味“マーク”しており、逆もまたしかりだった。HOPPY 86 MCは左のみ/右のみ/左のみ/無交換という作戦を採っていたが、スタート直後、松井孝允が埼玉トヨペットGB マークX MCと接触した際に、エアジャッキ差し込み口にダメージを受けてしまい、2度目のピット時に差し込み口が奥に入ってしまい1分程度のタイムロスを喫していた。

「あの戦略は、タイヤメーカーさんの許可がなければできない作戦です。マザーシャシーの特徴というか、強みだと思います。3回目のピット(タイヤ交換したとき)はナットがかんでしまいましたが、その後25号車の前に出られていれば、セーフティカーで1周先にいけていた。その意味では悔しいですね」というのは、埼玉トヨペットGreen Braveの青柳浩監督。

 この意見には脇阪も同調する。「セーフティカーがなければ僕たちが勝っていたレース。でも、これもレースなので。僕たちが見ていたのは勝てるかどうか。それを考えたときに“置きにいく”戦略を採る必要はない。勝ち負けでギリギリのコンパウンドを調べるためにトリプルを選択したんですよ」と脇阪は振り返った。

 残念ながらチームにとって初優勝は“おあずけ”となってしまったが、青柳監督は「一歩届かなかったです。悔しいですが、悔しがれるのもいいことかなと。このレース距離で堂々とレースができましたし、成長を実感しています」と語った。埼玉トヨペットGreen Braveは今後の2戦、ライバルにとって脅威の存在となるだろう。

 残念ながら表彰台には届かなかったが、ブリヂストンを履くARTA NSX GT3やLEON PYRAMID AMGもタイヤをうまく使った戦略を採っていた。今回優勝を飾ったT-DASH ランボルギーニ GT3、比較的スタンダードな戦略を採り3位に食い込んだModulo KENWOOD NSX GT3はヨコハマだが、この対決構造も興味深いところだろう。

 GT300ならではの、クルマなりの特徴と智略がぶつかり合った500マイルレース。長丁場のレースは疲れるが、東京オリンピックとの兼ね合いで2020年は、この戦略合戦が観られないのは少し寂しくもある。