【ヤマハTRACER 900試乗】MT-09の単なる派生モデルではない! ツアラーとしての実力がメチャ高!

2014年11月、MT-09 TRACERの名でデビュー。2018年3月のマイナーチェンジでTRACER 900にネーミング変更されている。今回は2019年3月1日にカラー変更された新型に試乗した。MT-09の派生モデルに違いはないが、スポーツツーリングにジャンル分けされるトレーサーは、ロードスポーツに属すMT-09とは異なる仕上がりと乗り味を披露した。

REPORT⚫️近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO⚫️山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ヤマハ・TRACER900……1,112,400円

ブルーイッシュグレーソリッド4〈新色〉
マットダークグレーメタリック6

ヤマハ・TRACER900 GT……1,198,800円

ブラックメタリックX
ブルーイッシュグレーソリッド4〈新色〉
マットダークパープリッシュブルーメタリック1

 2014年のEICMA(ミラノショー)で世界初公開されたMT-09 TRACERがこのモデルの原点である。もちろんベースとなったのはMT-09だが、ツーリングを考慮した幅広い走行シーンでの快適性を考慮されて新開発。ヤマハの豊富なバリエーションの中ではスポーツツーリングにカテゴライズされている。

 MT-09の派生モデルとはいえ、リヤサスペンションには新設計の専用ロングタイプ・スイングアームを採用。ホイールベースはMT- 09より60mmも長い1500mmになっている。車体寸法もひとまわり大きくシート高は30mmも高い850mm(高い方にセットすると865mm)。フロントにウインドスクリーンが標準装備される関係で車高は255mm も高い1375mm。車両重量も21kg差の214kg とそれなりの重さだ。軽さを武器に鋭い操縦性が楽しめるロードスポーツカテゴリーのMT-09とは、まるで趣の異なるバイクに仕上げられていたのである。
 
 メーカーカタログのキャッチコピーを引用すると「この週末が、待ち遠しい。」とある。確かにガレージに入れた瞬間から、次のツーリング計画に思いを巡らせる毎日が訪れる。そんなシーンが自然とイメージできてしまうキャラクターなのだ。

 エンジン、ミッション、駆動系等の諸元はMT-09と共通。高トルクと回転ムラの少ないスロットルレスポンスを誇り、出力特性はスポーツモードのAと穏やかなB及びSTD の3種類から選択可能。トラクションコントロールも制御の強さが2択でき、制御をOffすることも可能である。

 多彩なデータ表示を担う液晶のマルチファンクションメーターの左脇には12Vのアクセサリー電源端子も標準装備。ワイズギヤからは多彩なアクセサリーが揃えられ、自分好みの旅マシンに仕上げる楽しみも見逃せない。
 ちなみに同GT仕様では、冬季のツーリング時にありがたいグリップウォーマーを標準装備。クルーズコントロールやQSS(クイック・シフト・システム)、他多くの上級装備が奢られている。その内容は下の装備一覧比較に詳しいのでご参照を。
 

ロマンを感じられる旅バイク

 試乗はパニアを装着した状態で行った。慎重に足を回してシートに跨がると、堂々と大きな車体はリッタークラスにも匹敵する雰囲気。目線の位置も高く見晴らしの良い視界の広さが印象深い。それでも大き過ぎず、重過ぎないというのが好印象。シートは低い方で乗っても両足の踵は浮いてしまうが、バイクを支える時の不安感は少なく、乗ったまま車体をバックさせる扱いやすさも許容できる範囲である。
 
 シートはクッションが硬めだが、厚みのあるシッカリしたデザインでなかなか快適。残念ながら今回は長距離走行を試すことができなかったが、後席も含めて座り心地は良さそうだ。後席は段差のあるセパレートタイプで左右にシッカリしたグラブバーが標準装備されているのも嬉しい。

 3気筒のツインカム12バルブエンジンは、スロットル操作に対して太いトルクで遅滞無くレスポンスし、なおかつ実にスムーズに吹き上がる。右手を大きく捻れば豪快な加速力を発揮、早めのシフトアップでエンジン回転を落として静かに走るのも悠然とやってのけるのである。
 そんな出力特性に鋭さを覚えたMT-09と感覚的に異なるのは、柔軟性に富む穏やかな乗り味がより魅力的に感じられ、ロングクルージングに相応しい快適性に似合って来る。

 実は操縦性に関しても、スタートした瞬間からMT-09とは異なるキャラクターに仕上げられていることに気付くのだ。どちらかというとライダー主体でアグレッシブに鋭さの伴う操作感のMT-09に対してトレーサー900は、素直さとスムーズさが際立っている。
 扱いやすさがあり、ごく自然と安心して乗れてしまう。タイトなUターンでは、トレーサー900の方がむしろ乱れの少ない綺麗なラインをトレースできてしまう程だった。直進安定性についても落ち着きがある。
 意識してクィックにバイクを倒し込む等、積極的に旋回力を高めようとする走りならMT-09有利は間違いないが、スポーツツアラーとして、あくまで気持ちの良い走りと快適性にこだわるならトレーサー900に優位性があることもまた間違いないのである。

 高さ調節できるスクリーンの存在はウインドプロテクションに優れ、ライダーへの風圧負担を確実に軽減してくれる。低い位置にセットすれば顔に心地よい風が堪能でき、爽快な気分になれることは請け合いだ。
 泊まり掛けのロングツーリングに出かけてちょっと素敵なホテルのエントランスロビーにパニアケースを下げて入って行きたい。勝手ながらそんなイメージが頭に浮かぶのであった。

⚫️装備一覧比較

⚫️足つきチェック(ライダー身長170cm)

セパレートシートの前側はセット位置を上下2段階調節できる。
ロー位置のシート高は850mmと高め、ご覧の通り両足の踵が地面から浮いた状態になる。乗ったまま車体を前後に動かすのも何とかなるレベル。
ハイ位置のシート高は865mm。両足の踵が大きく浮くので、膝も伸びきる感じとなるが、車体を支える不安感はそれほど大きくは無い。ただ、乗ったままでは車体を前後に動かし辛い。

⚫️ディテール解説

異形2眼のヘッドランプはポジションも含めてLED式。ロービーム時は左側のみが点灯。ハイビーム時は両眼点灯になる。
対向4ピストン式油圧キャリパーをラジアルマウント。φ298mmのダブルディスクローターは6点フローティングマウント方式。フロントフォークはφ41mmの倒立式だ。
傑作エンジンと評判の高い前傾3気筒エンジン。回転ムラの少ない3気筒ならではの特性と、軽量コンパクトな設計が素晴らしい仕上がりを披露している。
マフラーは車体真下にレイアウトされ、ショートカットされたエンドはちょこんと右出しでフィニッシュ。ご覧の通りセンタースタンドも標準装備されている。
リヤショックは水平近いレイアウトのボトムリンク式モノクロスサスペンション。プリロード及び伸び側ダンピング調節ができる。なおGTにはフルアジャスタブル式を装備、リヤのプリロードも工具不要のリモコン調節式が採用されている。
マフラーを回避するようにデザインされたロングタイプのスイングアーム。リヤのシングルディスクブレーキにはNISSIN製ピンスライド式油圧キャリパーを組み合わせる。
テーパードタイプのパイプバーハンドルがハイマウントされている。バーエンドにはブラッシュガードも標準装備。
下のホーンボタンは咄嗟の時に押しやすいベストボジションにある。右上はセレクトスイッチ。人差し指で扱うのはメニュースイッチだ。メーター脇のボタンスイッチも含めて、マルチファンクションメーターの表示切り替えやトラクションコントロールの作動具合が変更できる。
赤いのがエンジン停止及び始動スイッチ。下の丸ボタンはハザードスイッチ、上の四角い横押しノブはモードスイッチ。スポーティなレスポンスを発揮するA、標準的なSTD、穏やかなBモードから選択できる。
角形2画面タイプの液晶マルチファンクションメーター。左脇には12Vのアクセサリーソケットが標準装備されている。ちなみにGTにはフルカラーTFTディスプレイが採用されている。
スクリーンは上下スライド調節式。クリップを摘む感じでロック解除すると、5mm単位で10段階の高さ調節ができる。
しっかりとした硬さと厚みのあるセパレートシート。ともに脱着式だが、取り外しはキー操作で後部優先式。後シート下部のレバー操作で外れる前部シートはセット位置の高さを上下2段調節できる。
バッテリーを始め、各デバイスがギッチリと納められている。ETC機器は後部に取り付け可能。
ハードタイプのサイドケースは容量22L。単体重量は約5kg。最大積載重量も5kg。残念ながらヘルメットは収納できなかった。
キーはイグニッションキーと共通。開閉レバー等、各操作感や見た目の仕上がり具合はあまり上質ではないが、機能性は十分。

サイドケースは欧州で長年培われてきた3点固定方式。キーロックを解除してハンドルを引き起こすとロックバーが引っ込み、パニアを持ち上げ気味に引き離すと簡単に取り外しできる。家に持ち帰っても蓋を開けるにはキー操作が必要となるのがやや難点。

LED式のテール&ストップランプ。MT系やナイケンよりワイドなオリジナルデザインが採用されている。クリアレンズのウインカーはオレンジ色のバルブ(電球)式。
フロントフォークの外側を取り囲み、タンクへと繋がる一体感のあるカウルデザインが印象的。

◼️主要諸元◼️

認定型式/原動機打刻型式:2BL-RN51J/N711E
全長/全幅/全高:2,160mm/850mm/1,375mm
シート高:850mm(低い位置・出荷時)、865mm(高い位置)
軸間距離:1,500mm
最低地上高:135mm
車両重量:214kg
燃料消費率*1:
 国土交通省届出値定地燃費値*2…28.4km/L(60km/h)2名乗車時
 WMTCモード値*3…19.7km/L(クラス3, サブクラス3-2)1名乗車時
原動機種類:水冷・4ストローク・DOHC・4バルブ
気筒数配列:直列, 3気筒
総排気量:845㎤
内径×行程:78.0mm×59.0mm
圧縮比:11.5 : 1
最高出力85kW(116PS)/10,000r/min
最大トルク87N・m(8.9kgf・m)/8,500r/min
始動方式:セルフ式
潤滑方式:ウェットサンプ
エンジンオイル容量:3.40L
燃料タンク容量:18L(無鉛プレミアムガソリン指定)
吸気・燃料装置/燃料供給方式:フューエルインジェクション
点火方式:TCI(トランジスタ式)
バッテリー容量/型式:12V, 8.6Ah(10HR)/YTZ10S
1次減速比/2次減速比:1.680/2.812
クラッチ形式:湿式, 多板
変速装置/変速方式:常時噛合式6速/リターン式
変速比:
 1速…2.666 
 2速…2.000 
 3速…1.619 
 4速…1.380 
 5速…1.190 
 6速…1.037
フレーム形式:ダイヤモンド
キャスター/トレール:24°00′/100mm
タイヤサイズ(前/後):120/70ZR17M/C (58W)(チューブレス)/180/55ZR17M/C (73W)(チューブレス)
制動装置形式(前/後):油圧式ダブルディスクブレーキ/油圧式シングルディスクブレーキ
懸架方式:(前/後)テレスコピック/スイングアーム(リンク式)
ヘッドランプバルブ種類/ヘッドランプ:LED/LED×2
乗車定員:2名

◼️ライダー・プロフィール

元モト・ライダー誌の創刊スタッフ編集部員を経てフリーランスに。約36年の時を経てモーターファンJPのライターへ。ツーリングも含め、常にオーナー気分でじっくりと乗り込んだ上での記事作成に努めている。