ポルシェが取り組む「eスポーツ」をレポート! バーチャルとリアルの垣根は低くなっている

ポルシェが取り組む「eスポーツ」をレポート! バーチャルとリアルの垣根は低くなっている

Porsche Esports Racing Japan

ポルシェ Eスポーツ レーシング ジャパン

 

レースステージはディスプレイの中にも存在する

ポルシェが「eスポーツ」に積極的に取り組んでいるのをご存じだろうか?

eスポーツとはテレビゲームをスポーツの一種として捉えたもので、いわゆるシューティングゲーム、戦略を練って競い合うストラテジーゲーム、格闘ゲーム、スポーツゲームなどのほか、『グランツーリスモ』などでお馴染みのレーシングゲームといった種目がある。このうち、ポルシェが取り組んでいるのはいうまでもなくレーシングゲームだ。

もっとも、最新の『グランツーリスモ』は開発するソニー・インタラクティブエンタテインメント自らが“ドライビングシミュレーター”と銘打つほど本格的なもので、プロのレーシングドライバーでさえ初めて訪れるサーキットを“予習”するのに使用しているケースは少なくない。

eスポーツ「Porsche Esports Racing Japan」を開催

このたびポルシェ ジャパンが「Porsche Esports Racing Japan」との名で実施したイベントもまさにこの『グランツーリスモ』をベースとしたもの。その初年度にあたる今年度は、4月28日、5月5日、5月26日の3日間にオンライン対戦を実施。ここで上位10名に食い込んだ選手をポルシェが6月15〜16日に富士スピードウェイで開催するPorsche Sportscar Together Day 2019に招待し、多くの来場者が見守るなかで決勝トーナメントを行なってチャンピオンを決めるというものだ。

eスポーツに関心を持ちながらも、これまで生でその様子を見たことのなかった私は、富士で彼らの激闘ぶりを目の当たりにして強い衝撃を受けたので、その様子をレポートしよう。

今回は15日に5名ずつ2組に分けてセミファイナルを実施。ここで上位に勝ち上がった5名が16日のファイナルに進出する形式だったが、私は都合により15日のセミファイナルのみを取材。それでも、選手たちのレベルの高さは十二分に確認できた。

eスポーツの選手はリアルのレーシングカーも乗りこなせる?

私が見た限り、どの選手も正しいドライビングポジションをとり、ステアリングの握り方や操舵の仕方はいい意味で教科書どおり。肩をしっかりシートバックに固定して上半身を安定させ、両腕だけでステアリングを操作するのもリアルなドライビングとまったく変わらなかった。

そして彼らのステアリング操作が極めて滑らかだったことには舌を巻いた。タイヤのグリップ限界付近で走行していると思しき彼らが、荒いステアリング操作を行えばコントロールを失うのは当然のこと。それゆえのスムーズな操舵なのだろうが、だとすれば、私の立ち位置からは見えなかったものの、スロットルやブレーキも細心の注意を払って精妙にコントロールしているはず。彼らが意識を集中させ、真剣に“競技”に取り組んでいるそのオーラが会場の空気を支配し、まさに手に汗握る緊張感を生み出していることも本物のレースさながらだった。

私はそれを見て直観した。「ちょっと練習すれば、彼らは本物のレーシングカーでもかなりのタイムを記録できるだろう」と。それくらい彼らの走りはホンモノだったのだ。

リアルのレーサーとeスポーツ選手に違いはあるのか?

けれども、eスポーツの本質をさらに深く考えさせられるきっかけとなったのが、ホンモノのポルシェ カレラカップ ジャパン(PCCJ)に参戦する大滝拓也、笹原右京、小河 諒、上村優太の4選手による“eスポーツ・エキシビションマッチ”が直後に開催されたときのことだった。

ここに挙げた4名が若手とはいえ、優れた才能の持ち主であることは彼らがジュニア・フォーミュラやPCCJで残してきた戦績が雄弁に物語っている。この日、なんの準備もなしに10名のeスポーツ選手たちがホンモノのポルシェ911GT3カーを操っても、大滝、笹原、小河、上村の4選手に太刀打ちできなかったであろうことは容易に想像ができる。ところが、彼ら4名のドライビングはeスポーツ選手たちに比べてはるかに荒く、急激な操作のように私には思えたのである。

タイヤの性能をフルに引き出そうとすれば、運転操作はむしろ優しくていねいになっていくのが常識だと私は思い込んでいた。その常識があっけなく崩されたとき、私はなぜ4名のPCCJドライバーがそのような運転をしたのかを懸命に推測し、ひとつの仮説に辿り着いた。それは「ホンモノのドライバーは予想不可能な現実と常に向き合い、戦っている」というものだった。

eスポーツというバーチャルな世界では、基本的に予想外の事態は起こりえない。だから、ステアリングはスムーズに切って戻す。それだけで事足りるのだろう。

けれども、現実のレースを戦うドライバーたちは、刻々と変わるコンディションやマシンの状態にあわせて最適な操作を行わなければいけない。たとえば、コース上のタイヤ滓に乗り上げてタイヤのグリップが急激に低下することもあれば、ライバルが自分の間近をすり抜ければその空力的影響を受けて進路を乱されることもある。

ましてや接触でもしようものなら、挙動を乱すマシンを瞬時に立て直さなければいけない。つまり、彼らは瞬間瞬間に起きることを感じ取り、それに反応して操作しているのだ。そのクセがeスポーツでもそのまま出てしまうのだろう。

しかも興味深いのはeスポーツの国体選手でもある大滝でさえ、そのほかのeスポーツ選手とは異次元の激しいドライビングでエキシビションマッチを戦い、これを制した点にある。

参加するエンタメとしてもeスポーツは可能性大

では、純粋に観客として彼らの戦い振りを見たとき、eスポーツ選手とホンモノのレーシングドライバーでは、どちらがより見応えあるのだろうか?

個人的には、ホンモノのレーシングドライバーのほうがはるかに見応えがあると感じた。そして「ホンモノのレースでも彼らの身体の動きが観客席から見えたら、どんなに面白いだろう」と思った。

「だからeスポーツはダメだ」というつもりは毛頭ない。1シーズン戦うのに数千万円から1億円単位の予算が必要となる本格的なモータースポーツに参加できるのは、ごく一部の恵まれたドライバーのみ。しかし、その経験や楽しさを一般の多くのクルマ好きが味わえないことは残念極まりないことだ。

ところが、eスポーツであればホンモノのレースよりもはるかに手軽に、そして多くの人が参戦できる。しかも、サーキットに出かける手間が省けるので時間的な負担が少なく、万一事故が起きたときのリスクも考える必要がない。そういった意味からいえば、eスポーツとホンモノのレースは敵対する関係にあるのではなく、互いに手を取り合って振興に努めるのが本来あるべき姿だと考える。

「現実」と「仮想」の交流がモータースポーツを発展させる

そのいっぽうで、eスポーツにはまだまだ進化する余地があると思う。

さきほど述べた、ホンモノのレーシングドライバーが直面する予測不可能な事態をソフトウェアに織り込むことができれば、eスポーツ選手も状況に即応できる反射神経や判断力が求められるようになり、また一歩ホンモノのレースに近づくことになるだろう。

そうして、バーチャルと現実の垣根が低くなればなるほど両者の交流は緊密になり、eスポーツを含む広義のモータースポーツとしての発展が可能になるはず。それこそ、現実のモータースポーツとeスポーツの理想的な関係であると考える。

と、ここまで偉そうなことを述べてきたが、実は私自身にeスポーツの経験はなきに等しい。そこでこのGENROQ Webの協力を仰ぎながらeスポーツの世界をさらに学び、両者のよりよい関係を深く考察していきたいと思っている。今後の展開にご期待いただきたい。

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)